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河北新報・連載コラム「微風旋風」第六回『はやしことば』

 
 「はやしことば」

 作曲の醍醐味は三つある。一つは「主題との対話とその先にある発見」。主題を調べ、訪ねてゆく中で見えてくる景色との遭遇。二つ目は「奏者への伝達と実演」。自分の中での幻視・幻聴が他者によって再現される時。三つ目は「観衆に向けた演奏」。曲が世の中に産み落とされる瞬間。3度も喜びを味わうことができる。

 東日本大震災後は、学校のオリジナル和太鼓曲を書く機会が増えた。そのテーマとするのは、学校の所在地の地名、その地の偉人、流れる川や望む山、主な産業、そして災害の記憶と記録などだ。土地の歴史や営みを調べては、ここに生きた人たちの心情を表現しようと取り組んだ。私たちが暮らすこの地でこれまでに何があったのか。目の前の風景が当たり前ではなく、さまざまなことがあった上で今があるのだと確認するために。子どもたちの思いを巡らす依り代を作ろうと思うからだ。

 「岩出山伊達ばやし」(大崎市岩出山小)は、伊達政宗から継がれた城下繁栄への願いが、「仙台町方ばやし」(仙台市南材木町小)は、城下町の町方衆の気概がそれぞれテーマとなった。所在地名の由来が「核」となったのは大崎市敷玉小の「石神」。小川を渡る踏み石が神であったという伝説が元になった。宮城県立支援学校小牛田高等学園の「船入囃子」のタイトルは、学校周辺が大昔入江だったとする説から着想を得た。私立富岡幼稚園(福島県富岡町)の「あの空へ」は、帰宅困難区域にある夜の森地区の桜を思いながら作った。

 それぞれの創作現場で、彼らは自分たちのお囃子を作り出す。私は決まり事を多くしたくないので「掛け声」は最小限しか譜面に書かない。練習を重ね演奏が一つになるに従って、「ハッ」「ソーレ」などの声が自然に生まれてくる。タイミングを合わせる「掛け声」から、次第に仲間を励まし鼓舞する「はやしことば」に変わってゆく。風景や物語の中に入って、彼らだけの祭りを創造し始める様子は感動的だ。作曲の醍醐味とは、よく考えてみれば、子どもたちの思い描く力が発揮される瞬間に立ち会えることだった。


  河北新報朝刊・寄稿コラム「微風旋風」No.6(2020年11月19日・文化面掲載)
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